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第3章 25 
パラオの鼠はちくわ好き

 美代子さんはこのニュースを早くマイケルさんに伝えたいものだと思いましたが、マイケルさんは数日前からライアンさんのいるイボバン農業高校に経理の仕事を手伝いに行っています。しばらく帰ってこないでしょう。

     

 美代子さんはバナナが生きていると知って、喜んで良いのか悲しんで良いのかわかりません。美代子さんはバナナが元気で暮らしているなら、どこにいても良いのです。何とかバナナが殺されないようにする手段はないものでしょうか。また島に戻ってもかまいませんが、例えバナナが美代子さんのことをまだ覚えているとしても、出て来る可能性は低いでしょう。バナナは今までだって出て来ないほうを選んだのですから。

 「それにしても」と、美代子さんは考えました。ツカツクリは地面に枯葉を集めて巣を作り、卵を産みます。何代もその巣を使い続けるので、巣はしまいにまんじゅう塚のような大きな塊になるということです。美代子さんはバナナを探してあの島のあちこちを歩き回りましたが、そんな塚は目にしませんでした。

    

 パラオのツカツクリは飛べないということになっていますが、それは文字通りまったく飛べないということではないのかもしれません。鶏だって飛べない鳥と言えるかもしれませんが、パラオの鶏は高い椰子の木の上で、喉も裂けよとばかりに立派なときを告げます。美代子さんは、ジャングルの上をバサバサと飛んで行く大きな鶏に、目を丸くしたことだってあるのです。

    

 家に帰って買い物を片付けていると、袋の底から鼠捕りが出てきました。美代子さんは鼠を捕ったことがありませんから、餌には何を使ったら良いのか迷いました。アメリカの漫画映画では鼠はいつもチーズを狙っています。チーズが良いのかもしれません。美代子さんは冷蔵庫からチーズを出して、小さなかけらを鼠捕りに仕掛け、台所の流しの下の物入れの奥に置きました。

    

 美代子さんはそれから毎日鼠捕りを調べましたが鼠は一匹もかかりません。チーズにはごきぶりの小さなかじり痕がるばかりです。美代子さんは毎日チーズのかけらを新しくして、辛抱強く待ちました。2・3日した夜、美代子さんは居間の壁際をちょろちょろ走る鼠を一匹目撃してしまいました。コード渡りをしていた先日の鼠より大きく、別の鼠であることは明らかです。二匹現れたということは、その何倍もの数が近くにいると思わなければなりません。その鼠を目撃した時、美代子さんはたまたま夕食時で、うどんを食べていました。うどんには美代子さんの好きなちくわが入っていました。チーズで駄目ならちくわはどうでしょうか。美代子さんはちくわをかじって小さなかけらをテーブルの上に置きました。これを鼠捕りに仕掛けてみよう、と思ったのです。

    

 パラオの鼠はちくわが好きだということがわかりました。その翌日から毎朝、美代子さんが流しの下を調べる度に鼠がかかっているようになりました。金属のバネはきれいに鼠の首を直撃します。鼠はどうして正確にバネの下に首を伸ばすのでしょうか。横の方から近づいて餌だけ取ってしまう、ということは一度もありませんでした。しかし、毎日鼠がかかったのは最初の十日くらいのもので、それからだんだん捕獲数が減り、やがて鼠はかからなくなりました。鼠がいなくなったのか、学習して利口になったので鼠捕りに近づかなくなったのか、美代子さんにはわかりません。

2010 - present
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